2009年12月29日火曜日

会報かわうそ39号 2006年10月2日

会報 かわうそ 39号
   [発行責任者]清流球磨川・川辺川を
          未来に手渡す流域郡市民の会
            会長 緒方俊一郎
            熊本県人吉市九日町36-3F 
    2006年10月2日発行 TEL/FAX0966-24-9929


◆国営川辺川利水事業、
   相良村の離脱で完全に頓挫!!
 川辺川の新利水計画策定で、3月に調整役の熊本県が水源を川辺川ダムとせず、川辺川ダム予定地の直下から直接取水する独自案を農水省に提示しました。
 ところが、熊本県が独自の非ダム案を示したことについて、自民党や福永浩介・人吉市長らが猛反発し、事前協議は3ヶ月あまりにわたり中断してしまいました。
 その後、6月には農水省が川辺川第2発電所(六藤)の発電用水を利用する「農水省新案」を提示。それを福永市長らはこぞって支持。しかしそれは、「ダム案に他ならない」と、今度は利水訴訟原告農家が反発しました。
 7月14日の事前協議では、熊本県が「農水省新案」で一本化しようとしましたが、利水訴訟原告農家や相良村長は応じず、あやふやなまま事前協議はまたも中断しています。
 そのような中、利水事業の最大の「受益地」とされていた相良村は、国営川辺川利水事業からの離脱を表明しました。矢上雅義・相良村長は事業離脱の理由として、将来農家に過大な負担をかけることや、過大な負担金で村財政が破綻することなどをあげています。水を待ち望む農家に対しては、既存水路の本格的な補修や改修を含めて村で努力していくとしています。
 このように、身の丈にあった事業にしていかないと、結局は教育や福祉予算が削られるのは目に見えています。
 農家にとって、そして住民にとって最もよい方策を客観的に判断すべきです。より早く、安く、確実に農家に水が届けられる方策が選択されることを望みます。


  「ダムによらない利水・治水を考える県議の会」の
  第2回学習会 人吉市青井神社 200名参加
      2006.3.27 緒方撮影



◆手渡す会・2006年3月~2006年9月の出来事
06. 3.17 相良村議会が、「川辺川水系の堤防改修と水質保全に関する意見書」を全会一致で採択。 3.27 「ダムによらない利水・治水を考える県議の会」の第2回学習会。(人吉市青井神社・200名参加)  3.29 手渡す会が福永浩介・人吉市長に「利水事業の事前協議への復帰」「河川整備基本方針検討小委員会の委員辞退」などの申し入れ。人吉市庁舎前で早朝ビラ配り。
4.13 球磨川水系の長期治水方針「河川整備基本方針」を策定する検討小委員会の第1回目の会合が、東京の国交省で開かれる。
4.30 手渡す会などによる流域の水害被災者への聞き取り調査が終了。ほとんどの世帯が川辺川ダム以外の治水対策を求めていることが判明。
5.10 第2回検討小委員会で、国交省が基本高水7000トンを提示。
5.29 川辺川利水で、農水省が既存発電水路から取水する新水源案を固める。
5.31 相良村の水害被災住民が、ダム以外の治水対策を県に要望。
6. 6 第3回検討小委員会で、国交省が森林の保水力議論を強引に打ち切る。
7.14 川辺川利水の事前協議で、熊本県が「農水省新案」で一本化しようとするが、利水訴訟原告農家や相良村長は応じず。
7.31 相良村が国営川辺川利水事業からの離脱を正式に表明。
8.26 第10回清流・川辺川現地調査、はじめて五木村で全体集会。(五木村林業センター、250名参加)
9. 6 第6回検討小委員会で国交省が、現行の治水計画と同じ基本高水7000トンを強引に決める。 9.22 相良村議会で、川辺川利水事業組合からの村の脱退を求める意見書を可決。



◆こわい!鶴田ダムの放流
 7月22日の集中豪雨で、鹿児島県の鶴田ダムが満水状態になる可能性が高まったため、異常洪水時の操作を実施し、下流の水位は一気に上昇しました。手渡す会のスタッフが現地調査したところ、ダム直下の道路も異常放流のため、大きく崩れてえぐれていました。
 鶴田ダムは、これまで3回水害調節不能に陥っています。過去には被災住民による、鶴田ダムを原因とする水害訴訟も起されています。

   ダムの緊急放流でえぐれた鶴田ダム直下の道路
        2006.7.31 木本撮影



◆科学的検証を黙殺する国交省・小委員会!
 国土交通省の収用裁決申請の取り下げで、川辺川ダム事業計画が白紙化している中、球磨川流域の長期治水方針などを協議する検討小委員会が4月から開かれています。
 ところが、小委員会のメンバーの大半は球磨川流域とは全くなじみの無い学識経験者などで占められ、国交省の見解を追認するだけです。住民は直接意見を言う機会さえもありません。また、毎回住民からは多くの意見書や要望書などが提出されましたが、それらを真摯に検討しようとする姿勢も見られませんでした。
 9月6日の第6回委員会では、基本方針の根幹となる人吉地点の基本高水流量を現行と同じ毎秒7000トンに決めました。国交省の強引な進め方に対し、潮谷義子・熊本県知事は不満をあらわにしました。
 住民を締め出す、このようなやり方は、明らかに時代に逆行するものです。これでは科学的で客観的な検証は期待できず、住民の納得も得られるはずがありません。
 球磨川では、2001年12月から事業者(国交省)と住民が同じテーブルにつき、熊本県がコーディネートして事業の是非を議論する「川辺川ダムを考える住民討論集会」が開催されてきました。この実績を活かし、国土交通省は「住民参加」を理念とする新河川法の精神を尊重し、住民参加で川づくりを進めるべきです。


◆会計報告(2006.2.22~2006.9.21)
│収入の部 │ 金額 │備考 │
│繰越金 │   65,948│ │
│年会費・カンパ │ 962,283│グッズの売上、雑収入なども含む│
│合計 │ 1,028,231│
│支出の部 │  金額 │備考 │
│郵送費 │  211,775│会報発送、資料発送 │
│交通費 │ 348,298│東京行動(小委員会)、高速代など│
│事務用品費 │  33,735│紙代、文具など │
│事務所維持費 │  415,725│家賃、電気、電話など │
│その他 │  82,030│治水ブックレット50冊ほか │
│合計 │ 1,091,563│ │ 
(収入)1,028,231-(支出)1,091,563=▲63,332
◇東京行動が続き、赤字に陥りました。「手渡す会」は、皆様方の年会費とご寄付のみで運営しております。ご支援ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。



◆水害被災者は
  川辺川ダム建設を求めていません!!
 国交省は、昨年の台風14号での水害状況を例に挙げて「110戸に余る家屋の浸水被害があったので川辺川ダムが必要だ」(佐藤信秋事務次官)と主張しています。
 ところが、手渡す会が4月までに実施した聞き取り調査によると、昨年9月の台風14号で家屋に浸水被害を受けた川辺川、球磨川流域の世帯の大半が、宅地のかさ上げや河床の土砂撤去など、川辺川ダム以外の治水対策を求めていることが明らかになりました。ダムについては「ダムの放水で河川が一気に増水する恐れがある」などと反対が相次ぎ、建設を求める意見はほとんどなかったことも報道されています。
 昨年の台風14号で、川辺川のはんらんにより大きな被害を受けた相良村永江地区の水害被災住民は5月31日、矢上雅義村長とともに県庁を訪れ、ダムによらない治水対策の早急な実施を求める要請書を提出しました。要請書は、同村永江地区の住民一同名義で、北側一雄・国土交通大臣と潮谷義子知事あて。発起人の緒方正明さんが、同地区全70世帯の住民ら254人の署名と併せて、出張中の潮谷知事の代理の冨田耕司・県土木部次長に手渡しました。
 住民らは「水害で地域は疲弊している。ダムは何年先になるかわからない。1日も早く川底のしゅんせつや堤防のかさ上げを」と訴えました。

    改修が済んでいない芦北町・漆口地区の
    台風14号による浸水状況
         2004.8.30 緒方撮影


◆編集後記 
 1993年8月に「手渡す会」を設立し、川辺川ダム建設中止を求める闘いをはじめて13年もの年月がたちました。その間、94年7月と99年9月に、水源連(水源開発問題全国連絡会)との共催による全国集会を開きました。94年7月30日の全国集会では、人吉カルチャーパレスに1000人以上が集まった熱気を、昨日のことのように思い出します。当時の状況を考えると、本当によくここまで来たものだと驚きさえ感じます。◇来たる10月28日に、3度目の全国集会を開きます。川辺川ダム建設を完全に中止させるために、数々のダム計画を中止させた韓国からゲストをお招きし、「美しい日本に川辺川ダムはいらない」と題して行います。安倍新首相に私達の声が届きますよう、皆様方のご参加をお待ちしています。(N.O.)

2009年12月28日月曜日

会報かわうそ38号 2006年3月20日

会報 かわうそ 38号
     [発行責任者]清流球磨川・川辺川を
              未来に手渡す流域郡市民の会
              会長 緒方俊一郎
              熊本県人吉市九日町36-3F
      2006年3月20日発行 TEL/FAX0966-24-9929

◆川辺川の新治水方針は
  住民参加の熊本方式で!
 国土交通省の収用裁決申請の取り下げで、川辺川ダム事業計画が白紙化している中、同省は球磨川流域の新たな治水方針(河川整備基本方針)の策定に着手しました。潮谷義子・熊本県知事も、策定にかかわる検討小委員会に加わる意向を示しました。
 これは、新河川法に基づく手続きで、検討小委員会は国交省が示す「基本高水流量」(洪水時の最大流量)などを検討することになっています。ところが、委員の多数を国交省側の専門家が占めており、すでに先行している流域では、住民から「国交省の示す数値に委員は反論できない」との批判が出ています。
 住民を締め出す、このような国交省のやり方は、時代に逆行するものです。これでは客観的な検証はとても期待できず、流域住民の納得も得られないことは明らかです。
 川辺川では、2001年12月から事業者(国交省)と住民が同じテーブルにつき、熊本県がコーディネートして事業の是非を議論する「川辺川ダムを考える住民討論集会」が開催されてきました。その中で「基本高水流量」の検討も行われました。過去最大の洪水が来ても、一部の未改修の地区を除いて現状でも球磨川からあふれないことや、ダムなしの総合治水対策が現実的であることが、住民側の主張により明らかにされました。
 住民討論集会や新利水計画の策定を通して、熊本県が国と住民との調整役をしてきた実績は「熊本方式」とも呼ばれ、高く評価されています。新河川法の精神は、「流域住民の意見や環境に配慮した川づくりを進める」です。国土交通省は、「熊本方式」の実績を活かし、住民参加で河川整備基本方針づくりを進めるべきです。

    第2回川辺川ダムを考える住民討論集会
    八代市厚生会館 2002.2.24 手渡す会撮影

◆手渡す会・2005年11月~2006年3月の出来事
05.11.18 手渡す会などが北側国交大臣宛に「川辺川ダム事業計画の即時中止と現実的な治水対策の早期実現を求める要請書」を提出。
  11.24 手渡す会など8団体の代表が上京し、国交省、財務省などに「川辺川ダム計画の速やかな廃止」などの要望書を提出。
  12.13 農水省が、新利水計画の水源を川辺川ダムとする「ダム案」と、新設する堰とする「非ダム案」を提示。
  12.27 熊本県議会議員8名による「ダムによらない治水・利水を考える県議の会」が発足。
  12.28 川辺川ダム事業認定取り消し訴訟(尺アユ裁判)、原告漁民の勝利で終結。
06. 1.31 国土交通省が球磨川流域の新たな治水方針(河川整備基本方針)の策定作業に着手したことが明らかになる。
  2.12 潮谷義子・熊本県知事が五木村を訪れ、村民と意見交換。
  3. 6 川辺川の新利水計画策定で、熊本県が水源を川辺川ダムとせず、川辺川から直接取水する独自案を農水省に提示。
  3. 9 自民党県連、新利水計画の県独自案について、知事に抗議文提出することを決定。
◆ダムに頼らぬ治水を!
 人吉市の中川原周辺や、繊月大橋周辺などの河床には、大量の土砂が堆積しています。それらを除去すれば、洪水の水位もぐっと下がるのは当然のことであり、私たちは土砂の撤去をずっと要望してきました。
 国交省もようやく、昨年12月から人吉市の中川原周辺に堆積した土砂の撤去作業にとりかかり、工事は先日終了しました。撤去工事の対象となったのは、中河原公園の上下流の延長600m。通常時に水が流れていない河原の土砂を、最大幅100m、深さ1.5mほど取り除きました。この工事を、地元の業者が9000万円で受注しています。
 建設まで何十年もかかるダム建設ではなく、このような現実的な治水対策が求められています。また、ダム建設は大手のゼネコンしか受注できませんが、河道の整備や改修ならば地元の業者が受注できます。ダムに頼らぬ治水対策は、地域振興にもつながるのです。
        人吉市・中川原の土砂撤去工事
        2006.1.7 緒方撮影
◆熊本県、「非ダム」利水案を提示!
 川辺川の新利水計画策定で、調整役の熊本県が水源を川辺川ダムとせず、川辺川ダム予定地の直下に取水装置を設置して、川辺川から直接取水する独自案を農水省に提示しました。
 新利水計画については農水省、対象農家、流域の市町村などが同じテーブルにつき、熊本県が調整役となって新利水計画の水源を「川辺川ダム」とするのか「非ダム」とするのか話し合う事前協議が続いていますが、意見の隔たりが大きく、どちらの案でも事業を実施するために必要な農家の3分の2の同意を得るのは難しいと見られていました。
 川辺川利水訴訟原告団の茂吉隆典団長は「熊本県案は農家負担も安く、漁業補償で混乱が懸念された堰(せき)も設けず、通水開始が確実に早まる」と歓迎。ところが、熊本県が独自の非ダム案を示したことについて、自民党は猛反発をしています。
 自民党の反発の理由に農家の立場に立ったものは見受けられず、「県独自案は、多目的ダムである川辺川ダムを造りたくないと考えていることの表れ」「自民党は、最初からダム案を選択している」などと、ダムをごり押ししようとする姿勢をあからさまにしています。
 農家にとって最もよい方策を客観的に判断すべきです。より早く、安く、確実に農家に水が届けられる方策が選択されることを望みます。
◆会計報告(2005.10.22~2006.2.21)
│収入の部 │ 金額 │備考 │
│繰越金 │  246,243│ │
│年会費・カンパ │ 364,628│グッズの売上、雑収入なども含む│
│合計 │ 610,871│ │
│支出の部 │  金額 │備考 │
│郵送費 │ 109,275│会報発送、資料発送 │
│交通費 │ 122,566│高速代、水源連大会(群馬)など│
│事務用品費 │ 40,262│紙代、文具など │
│事務所維持費 │ 239,220│家賃、電気、電話など │
│その他 │  33,600│治水ブックレット50冊 │
│合計 │ 544,923│ │ 
(収入)610,871-(支出)544,923=65,948
◇「手渡す会」は、皆様方の年会費とご寄付のみで運営しております。2006年分 の年会費(一口1000円)払い込み用紙を同封させていただきました。ご支援ご 協力の程、よろしくお願い申し上げます。
◆川辺川の濁水の原因は穴あきダムだ!
 今年に入り、川辺川は雨のたびに白く濁り続けています。冬季の少雨でも白濁するとは、以前の川辺川では全く考えられないことです。
 私たちは川辺川上流部を調査したところ、五家荘の朴木(ほうのき)砂防ダム上流部に土砂が5m以上堆積し、少しの雨でも堆積した土砂が溶け出し、清流が濁水に変わっているのを確認しました。
 一昨年の台風16号、昨年の台風14号の襲来で、朴木ダム・樅木ダム上流部に大量の土砂が堆積し、川辺川は長期間濁り、流域のアユ漁は大きな打撃を受けました。川底の石が泥を被ったままでは、今年もアユは順調に生育することができないでしょう。
 また、川辺川の濁りは球磨川本流も汚しており、観光都市である人吉市のイメージを非常に悪くしています。
 この2つの砂防ダムは、実体は巨大な貯留域を持つ「穴あきダム」です。手渡す会や流域の漁民有志は国土交通省に対し、川辺川の深刻な濁りの原因である朴木ダム・樅木ダムの撤去を何度も要請しています。ダム本体建設予定地のある相良村議会は3月17日、川辺川の改修や水質保全への対策を国・県に求める意見書を、全会一致で採択しました。 水質日本一の清流を長期間濁水に変えたのは、高さ25mの砂防ダムでした。美しかった渓谷に土砂を大量に堆積させ、川の環境を破壊しているのです。今後もし、高さ61mの五木ダムや、高さ107.5mの川辺川ダムが建設されたら、川辺川と球磨川の清流は完全に破壊されるのは明らかです。
  5m以上堆積した朴木(ほうのき)砂防ダム上流部
  2006.2 生駒撮影
◆編集後記 
 昨年12月に、熊本県議会議員8名による「ダムによらない治水・利水を考える県議の会」が発足しました。現地視察や学習会、知事への提言書の提出など、活発な活動を展開されています。◇新利水計画策定で、熊本県が川辺川から直接取水する独自案を提示したことに対し、自民党が猛反発しました。県議会では自民党の県議が潮谷知事の答弁を拒否しました。「県独自案」が「ダム案」よりも優れていることが明らかになるのを恐れたのでしょうか。議会という公の場できちんと議論さえしない自民党の姿勢は、全くおかしなものです。農民の立場に立った協議の再開が待たれます。一方、ダム本体建設予定地のある相良村の矢上雅義村長は3月17日の村議会で、県の独自案を評価しています。◇3月27日には、人吉で県議の会の第2回県民学習会が開かれます。大変重要な集会です。是非お集まりください。(N.O.)

2009年12月27日日曜日

会報かわうそ37号 2005年11月21日

会報 かわうそ 37号
     [発行責任者]清流球磨川・川辺川を
              未来に手渡す流域郡市民の会 
              会長 緒方俊一郎
              熊本県人吉市九日町36-3F 
     2005年11月21日発行 TEL/FAX0966-24-9929


◆国交省収用申請「取り下げ」で
   川辺川ダム計画白紙に!
 国土交通省は9月15日、川辺川ダム建設に伴う流域漁業権や土地の収用裁決申請を取り下げました。計画発表から40年目にして川辺川ダム事業計画は白紙に戻り、今後のダム建設の行方は全く不透明となりました。
 1966年の川辺川ダムの計画発表以来40年にもわたり、地元はダム計画に振り回され続けてきました。流域の治水対策はもちろん、利水も地域づくりも、ダム計画があったがために放置されてきました。行政がダムにこだわり続けるがぎり、今後もこの状態が続くことになります。
 これまでの「川辺川ダムを考える住民討論集会」の中で、過去最大の洪水が来ても、一部の未改修の地区を除いて球磨川からあふれないことや、ダムに頼った治水は危険であり、ダムなしの総合治水対策が現実的であることが、住民側の主張により明らかにされました。治水でも利水でも、川辺川ダムは不要です。
 また、1968年当時、国は川辺川ダムの総事業費を215億円と見積もり、5年後の1973年度には完成するとしていました。ところがその10倍近い2000億円を投じ、40年が経過してもなおダム本体工事に着手すらできず、計画は白紙に戻ったのです。昨年8月、国は総事業費を3300億円と試算していたことが明らかになりましたが、それが今後どこまでふくらみ、いつ完成するか、見当もつかなくなりました。
 流域住民の生命・財産を守るために、国交省は途方もない困難と期間のかかる川辺川ダム建設を即時中止し、河川改修など現実的な治水対策に早急に取りかかるべきです。

  国土交通省に対し川辺川ダム収用裁決申請
  「取り下げ」を勧告した熊本県収用委員会
    2005.8.30 緒方撮影


◆手渡す会・2005年6月~2005年10月の出来事
05. 6. 4 新利水計画のダム案と非ダム案について、農家への説明会と5巡目の集落座談会が始まる。
  6.27 新利水計画の集落座談会の出席率17.8%。関係農家の関心の低さが明らかになる。
  7. 3 川辺川ダム新利水計画、採算割れの見通しと朝日新聞が報道。
  7.13 五木村の瀬目トンネルに、新たな内壁はく離があることが明らかになる。
  7.24 潮谷知事、農業と水の重要性訴え、人吉で講演。
  7.30 手渡す会学習会(人吉カルチャーパレス)に100名参加。
  8.22 ブックレット「川辺川ダムはいらん!」初版第1版を発行。
  8.30 熊本県収用委員会、国土交通省に対し川辺川ダム収用裁決申請「取り下げ」を勧告。
  9. 1 川辺川ダム事業認定取り消し訴訟(尺アユ裁判)で、原告漁民は「国交省は収用申請を取り下げ、話し合いの窓口を開くべき」と主張。
  9.15 国土交通省、収用申請を取り下げ、川辺川ダム計画白紙に。
  9.15 手渡す会が北側一雄・国土交通大臣に川辺川ダム計画中止を求める要請書を送付。
  9.28 台風14号襲来後、川辺川が長期にわたって濁っていることで、手渡す会が国交省に2つの砂防ダム撤去の要請書を提出。
  10. 7 熊本県が川辺川ダム計画への対応を探る「川辺川ダム総合対策会議」(議長:潮谷知事)を発足させ、初会合。
  11. 4 川辺川ダム事業認定取り消し訴訟(尺アユ裁判)で、国が事業認定の失効を認める。


◆ダム建設と五木の振興は切り離して!
 水没予定地を抱える五木村で9月28日、村民大会が開かれ、10月3日にはダム本体の早期着工などを求め、西村久徳村長らが県や九州農政局に陳情しました。ダム計画が白紙化したため、五木村はダムを前提とする立村が不透明になったと危機感を抱いています。
 しかし、ダムを前提とした地域振興策は「絵にかいた餅」に過ぎません。利用価値のないダム湖に、一体どれだけの観光客が集まるのでしょうか。林業と観光を基盤とする五木の振興策に、ダムはマイナス要因としかなりえません。ダム建設と五木の振興は切り離して考えるべきです。

       頭地の旧集落と代替地
        2005.8.2 緒方撮影 

◆川辺川の濁水の原因は砂防ダムだ!
 9月6日の台風14号の襲来後、川辺川の深刻な濁りは1ヶ月あまりにわたり続きました。手渡す会スタッフで川辺川上流域をくまなく調査したところ、八代市(旧泉村)の朴木(ほうのき)砂防ダム上流部に堆積した土砂で清流が濁水に変わっているのを確認しました。
 この長期にわたる濁りにより、流域の鮎漁は昨年以上に大きな打撃を受けています。ところが国土交通省は「長期濁りの原因は、山腹崩壊や河岸の洗掘などによる影響が大きいと考えられる(人吉新聞2005.9.22)」との見解しか示していません。
 そこで、手渡す会は流域の漁民有志とともに9月28日、国交省川辺川砂防事務所を訪れ、川辺川濁水の原因である朴木砂防ダム・樅木砂防ダムの撤去を強く要請しました。
 その後、10月6日、住民と国土交通省の共同調査で、同ダムが濁水を流し続けていることを再度確認し、2つの砂防ダムの撤去を再度要請しました。
 水質日本一の清流を濁水に変えたのは、規模の小さい砂防ダムでした。今後、もし高さ61mの五木ダムや、高さ107.5mの川辺川ダムが建設されたら、川辺川と球磨川の清流は完全に破壊されるのは明らかです。
◆会計報告(2005.5.22~2005.10.21)
│収入の部 │ 金額 │備考 │
│繰越金 │ △265,907│ │
│年会費・カンパ │ 1,167,780│グッズの売上、雑収入なども含む│
│合計 │   901,873│ │
│支出の部 │  金額 │備考 │
│郵送費 │    241,165│会報発送、資料発送 │
│交通費 │  28,223│高速代など │
│事務用品費 │    67,830│紙代、文具など │
│事務所維持費 │    289,512│家賃、電気、電話など │
│その他 │  28,900│広告費など │
│合計 │   655,630│ │ 
(収入)901,873-(支出)655,630=246,243
◇「手渡す会」は、皆様方の年会費とご寄付のみで運営しております。2005年分の年会費(一口1000円)未納の方は、ご支援ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。
◆ダムに頼らぬ治水・利水を!
 国土交通省の「収用裁決申請の取り下げ」後、一部のダム促進派は活発な動きを見せています。 川辺川ダム建設促進協議会(会長・福永浩介人吉市長)は10月27日、国土交通省に対し、ダムの早期着工などを求める要望書を提出しました。福永会長は「地元としても川辺川ダム建設に強い意志で臨む」とアピールしたとのことですが、住民がダム建設を求めていないことは、これまで何度も行われた各種の世論調査の結果からも明らかです。
 また、自民党県連の「川辺川ダム問題プロジェクトチーム」が10月27日、初会合を開き、治水と利水を切り離すことなく、多目的ダムの建設を国や県に求めていく方針を確認したといいます。しかし、川辺川ダム計画は白紙となり、今後もダムに頼るとすれば、流域の治水も利水も実現するまで途方もない時間がかかることになります。
 10月31日には、第3次小泉改造内閣で留任した北側一雄・国土交通大臣が就任会見で「治水面で川辺川ダムは必要だ」と述べています。国交大臣は、ダム本体着工のめどを立てるために「農水省に早く新利水計画をまとめてもらいたい」と語っていますが、ダム計画そのものがなくなっているのに、ダムを水源とする利水案など立てられるはずがありません。
 国交省は、新河川法による新たなダム計画を一から練り直すことになります。それには、河川整備計画の策定、環境アセスメントの実施、住民との合意形成、県議会と知事の同意など、多くの困難な手続きが必要となります。着工には流域の漁業権の取得も必要不可欠です。熊本県の財政も破綻寸前であり、これらが全てクリアできるはずがありません。流域住民のために、今こそ、ダムに頼らぬ現実的な治水・利水へと転換すべきです。
        是非お読みください!
◆編集後記
 このたび、ブックレット「川辺川ダムはいらん!~住民が考えた球磨川流域の総合治水対策」を花伝社から出版しました。全国の主要書店で好評発売中です。住民有志による編集委員会をつくり、住民討論集会の資料などをもとに学習会を重ね、住民の、住民による、住民のための、ダムに頼らない治水対策をまとめました。専門的な表現をできるだけなくし、写真や図を満載し、誰が読んでも分かりやすく仕上げました。これ一冊で、川辺川ダム問題の現在と、球磨川の治水対策のあるべき姿が、よくご理解いただけると思います。川辺川ダム問題解決に向けた材料として、多くの方々に読んでいただきたいと思います。チラシを同封しました。販売拡大にご協力ください。(N.O.)